クラウドネイティブなヨーロッパ現地法人の作りかた

クラウドネイティブなヨーロッパ現地法人の作りかた

Clock Icon2018.02.02

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長きにわたって低迷していたベルリンやデュッセルドルフの日本商工会の会員数は漸増の兆しをみせ、欧州EPAへの期待もあり、これから新しく駐在員事務所を開いたり、現地法人化を進める日本企業は多くなってくると思います。

不動産、銀行、会計事務所、人材採用などは定型化が進み、欧州の主要都市では複数の日系企業向けのプレイヤーが競争していますので、適正なコストでそれほど苦労せずにことを進めることができます。IT周りに関しても同じことが言え、進出時の最初期IT構築プロジェクトをインテグレータに丸ごと任せても失敗することはまずありません。

クラスメソッドのベルリンオフィスも、欧州に進出してこられる日系企業のオフィスITからインフラ構築、ソリューションやアプリケーションの導入、開発を行いますが、今回はクラスメソッド的なアプローチで押さえておくべきポイントを紹介したいと思います。5〜50名のオフィス向け調達のチェックリストとしてご参考になれば幸いです。

1時間でとりあえず働ける環境を構築する

まず何はなくてもインターネットです。むしろインターネットがあればなんでもできます。

しかし企業向けのインターネット回線は1〜2ヶ月はリードタイムをみておかなければならず、ドイツで比較的現地工事が早いケーブルISPのUnitymedia Businessも1週間はかかります。そこで容量が多いLTEのデータ回線を調達するのですが、単にモバイルルータで回線をシェアするとコントロールも効かず、メインの有線回線が入った時に契約が無駄になります。

USBインターフェイス付きのフェイルオーバーやボンディングが可能なWifiルータを用意すると有線開通後にLTEをバックアップにできて良いです。Cisco 880/890GFortiWifi 60Eなどが一般に調達できます。ACLなどのポリシーが日本のIT部門で決まっているならば、ネットワークエンジニアはテストを含めて1時間ほどでネット環境を完成させるでしょう。

あらためて通信環境を考察する

なかなか通信インフラが更新されず、今でもTDM(E1)やSDSLやVDSLが企業で使われていたりする欧州ですが、ようやくEthernetによる閉域網や直接接続インターネット(DIA)が普及してきました。

AWSのDirect ConnectやポリシーとしてどうしてもMPLSが必要なところは別ですが、通信環境のコスト効率とフィジビリティを考えると、10〜100MbpsのキャリアEther DIAをメイン回線の第一候補にすべきです。xDSLやコンシューマ向けのブロードバンドを2銘柄使うという手もありますが、アクセスダイバーシティの確保と障害対応に問題があるのと、そもそも十分なトランジットを買っていなかったりピアが不足していたりと不安要素が拭えないため、多少値が張っても譲るべきではありません。

インターネットがあればなんでもできると言いましたが、そこには電話も含まれます。アナログの電話回線やISDNを引こうとするとドイツテレコムがいつまでたっても現地調査に来なかったり、法人立ち上げ時の様々な契約で重要になってくる会社の固定電話番号がなかなか取れなかったりと苦労します。そのためSIPによるIP電話が広く普及していて、例えばドイツやイギリスのsipgateは会社登記簿があれば住所のある市内局番を割り当てた電話番号を使える状態で即時払い出してくれます。

それをPolycomのIPデスクフォンやスマホのSIPクライアントに割り当てればPBXも必要ありません。オフィスの電話を引いたらSiemensのヘビー級PBXが5年リースで設置されてしまったというのはよくある話なので、電話会社に電話を頼むという選択肢は初めから外しておいたほうが無難です。

また大陸ヨーロッパでは文書の証憑は依然としてFaxで行われることが多く、例えば携帯電話の解約はメールやウェブフォームでは完結せず、書留かFaxでの送付が必要です。SIPも必ずFaxの送受信ができるものにしておきましょう。

クラスメソッドヨーロッパでは、LTE付きDIAを収容する方法として、VelocloudというSD-WANを提案しています。クラウド側でアグリゲートされたGWを使うため、セカンダリ回線を単なるバックアップとして使うのではなく積極的にパケットロスを補うボンディングが可能で、ビデオ会議などで威力を発揮するほか、AWS Readyで、あらかじめ全リージョンに用意されているGWインフラを使ってVPCに接続できます。もちろん多拠点接続や帯域の割り当てもオーケストレータを使ってデザインできます。

軽量化とセキュリティ強化

オフィスITというとまずはファイルサーバーとメールですが、ファイルサーバーを小規模な事務所で管理するのはコスト的に見合わず、データアーカイブ法規上の保全が不十分で、さらにGDPRの観点から所在と追跡の説明責任が取りにくく、安易に設置すべきではありません。また自社でメールサーバーを運用する時代でもありません。

こうこういったコンプライアンスとセキュリティを強化するには積極的にクラウド化を進めるほうが事例をなぞりやすく容易で、特にAWSOffice 365 Germanyはドイツのクラウド政府調達基準であるC5の認定を受けていて安心できます。C5はフランスでも互換制度を作成中で、今後EUのスタンダードになる可能性が高いです。

メールとファイルシェアのコラボレーションツールのみであればAmazon WorkMail / WorkDocks、Officeアプリケーションのライセンスを人数分どのみち調達する必要があるならばOffice 365が選択肢となります。

またMicrosoft ADFSを使って、特にモバイル環境でのシームレスな認証と権限の管理をOffice 365他のSaaSに付加することが出来ます。こちらはAzure ADサービスで実現できますが、ユーザーごとのサブスクリプションになるためややコストがかかります。そこでAWSで軽量ADFSをパッケージ化してみました。とてもお安くなっております。

日本で使っている業務アプリケーションにリモートアクセスしたりオフィス内の端末へRD接続する際は、こちらもAWS上に構築しパッケージ化しているPritunlでのVPN接続が便利です。

社内のLANにファイルサーバーがない場合、端末のバックアップは考え方が分かれるところですが、ランサムウェアの脅威や物理的な破損のリスクを加味すると、ラップトップでマシンを復旧させるイメージバックアップは導入検討に値します。こちらも宣伝になって恐縮ですが、クラスメソッドヨーロッパではWindowsマシンイメージをフランクフルトリージョンのS3に安全に保存するオンラインバックアップサービスを提供しています。動かなくなった端末のリストアはもちろん別のマシンやEC2にもイメージを持ち込んでリストアできますので、データの最終防衛手段になります。

SaaSに寄せる業務アプリケーション

最後にオフィスを運営する上で必要になる業務アプリケーションを紹介します。業務が拡大すればERPへの移行を検討すべきですが、まずは仕事を回すために必要な機能をSaaSで充当します。

簿記ソフトは会計業務のアウトソース度合いによりますが、月次を会計事務所が行い、仕分けも概ね任せている場合はCandisDebitoorが直感的でわかりやすく、それらを自社で行う場合はQuickbooksLexoffice(ドイツ版Quickbooks)が人気です。

経費精算など、従業員セルフサービスでの間接費管理はXpenditureExpensifyがあり、弊社ではサブスクリプションが激安のドイツ製SaaS onexmaを使っています。いずれも各国のフォーマットへのエクスポートやAPIを使った簿記ソフトとの自動連携が充実しています。

勤怠管理はExcelなどでまとめているところも多いですが、各国の労働規制と人事情報のGDPR対応は経営上のリスクになりうるので専用のサービスを導入するべきです。ドイツですとTimeTacがよく使われています。

SFAやマーケティングオートメーションは無料に近いものからSFDCまで無数にありますが、顧客情報というリスキーな情報を扱うことから、そこに対する十分な説明を行なっているサービスに導入候補を絞る必要があります。現状、安価なSaaSでGDPR対応を詳しく説明しているのはHubSpotくらいしかありません。

以上がヨーロッパ現地法人でのオフィスITの概要になりますが、PCやプリンタを買ったり消耗品を揃えるのにamazonbusinessに加入しておくことは必須です。設立間もなく信用が乏しくてもデポジットによる決済ができ、特に駐在員事務所でVAT還付に重要な税務処理上明快なインボイスを作成してくれます。

 


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